家族から遺伝するがん【遺伝性腫瘍】について

家族から遺伝するがん 遺伝性腫瘍について

がんは、私たちの体をつくる“遺伝子”に何らかの変化(変異)が起こることで発症する病気です。しかし、多くのがんは、生活習慣や環境などによって生じた“後天的”な遺伝子変化によるものであり、親から子へと受け継がれることはありません。

一方で、ごく一部のがんは“生まれながらにもっている遺伝子の変化”が原因となり、がんの発症リスクが高くなるケースがあります。これを「遺伝性腫瘍」と呼びます。本記事では、家族から遺伝するがん、つまり遺伝性腫瘍がどのような仕組みで起こるのかを中心に解説していきます。

目次

遺伝子とがんの関係

がんは遺伝子の変化で起こる病気

がんの原因となる“遺伝子の変化”には大きく分けて2種類があります。

  1. 生まれたあとに生じる(後天的な)変化
    生活習慣やウイルス、放射線などさまざまな要因によって体の細胞に変化が起こり、がんになるパターンです。これは次の世代には受け継がれません。
  2. 生まれたときからもっている(先天的な)変化
    受精卵ができる段階で卵子や精子に含まれていた遺伝子変化が子どもに伝わるため、この遺伝子を持つ家系では、がんを発症しやすい体質が“遺伝”することがあります。

● 体細胞と生殖細胞

  • 体細胞: 筋肉や骨、血液など、私たちの体を構成するほとんどの細胞
  • 生殖細胞: 卵子・精子になる細胞

後天的な遺伝子変化は体細胞で起こるため、次の世代に受け継がれることはありません。しかし、生殖細胞に変化がある場合は、子どもにもその変化が引き継がれることがあるため、“家族性”や“遺伝性”がんが発症する可能性があります。

遺伝性腫瘍とは

遺伝子の変化が“受け継がれる”がん

遺伝性腫瘍とは、「がんの発症につながる遺伝子の変化」を生まれながらにもっている状態を指します。しかし、遺伝子に変化があるからといって、必ずがんになるわけではありません
たとえば、私たちの細胞の多くは、同じ遺伝子を2つずつ(父由来と母由来)持っています。がんを抑える働きをする遺伝子(がん抑制遺伝子)が片方機能しなくても、もう片方が正常であれば問題なく働き、がん化を防いでくれます。しかし何らかのきっかけで、もう一方の正常な遺伝子も傷ついてしまうと、がんが発症しやすくなるという仕組みです。

遺伝性腫瘍と遺伝しないがんの違い

  • 遺伝するがん(遺伝性腫瘍): 生殖細胞(卵子や精子)にがんに関わる遺伝子の変化が含まれており、子どもにもその変化が伝わる可能性がある
  • 遺伝しないがん: 生まれたあと(後天的)に体細胞だけで起きた変化のため、次世代に受け継がれない

代表的な遺伝性腫瘍の例

遺伝性乳がん(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer)

乳がん全体の約1割が遺伝性といわれ、その多くでBRCA1またはBRCA2と呼ばれる遺伝子に変化が見つかります。これらの遺伝子は本来、DNAの傷を修復するタンパク質をつくる役割を担っていますが、変化があると十分に修復できず、がんになりやすい状態になります。

家族性大腸腺腫症(FAP:Familial Adenomatous Polyposis)

大腸に多数のポリープ(腺腫)が若い頃からできやすい病気で、APC遺伝子の変化が原因とされています。放置するとがん化しやすいため、早期発見や定期的な検査が大切です。

網膜芽細胞腫(子どもに多いがん)

RB1という遺伝子に変化がある場合、幼少期に網膜にがんが生じやすくなります。両目に発症する両眼性と片目だけに発症する片眼性がありますが、両眼性の場合は遺伝性の可能性が非常に高いとされています。


遺伝性かどうかを調べるには

がん遺伝子パネル検査だけでは判別できない

「がん遺伝子パネル検査」は、がん組織や血液から採取したDNAをもとに多数の遺伝子を調べ、治療法を選択するための検査として医療現場で活用されています。しかし、この検査だけでは、それが生まれつき(先天的)もっていた変化なのか、生まれてからできた変化なのかは区別できません。

正常な細胞のDNAを合わせて検査する

親から受け継いだ“遺伝性の変化”であるかどうかを見極めるためには、がん組織以外の細胞(例:血液中の正常な細胞、がんの周りの正常組織など)も検査する必要があります。もし正常な細胞にも同じ変化があれば、生まれつきの変化、つまり遺伝性である可能性が高いと判断されます。


遺伝性がんが疑われるとき

  • 若い世代でがんを発症している人が多い
  • 同じ種類のがんを家系内で繰り返し発症している
  • ある人が複数のがんを経験している(たとえば乳がんと卵巣がんなど)

こうした特徴がみられる場合には遺伝性腫瘍が疑われることがあります。もし心配なことがあれば、がん診療連携拠点病院や、専門の「遺伝カウンセリング外来」で相談してみるのも一つの手段です。


遺伝カウンセリングと検査の大切さ

遺伝性腫瘍である可能性を詳しく調べるためには、専門家(臨床遺伝専門医や遺伝性腫瘍専門医、認定遺伝カウンセラーなど)と話し合いをするのが大切です。検査を受けるかどうか、検査を受けた結果、家族にどのように知らせるか、あるいは子どもに及ぼす影響や将来的なリスクについてもしっかり考えていく必要があります。

  • メリット: がんの発症リスクを早めに知ることで、予防的な手術や検査の頻度を上げて早期発見・早期治療につなげられる可能性がある
  • デメリット: 検査結果によっては、将来の不安や心理的負担が大きくなる、家族関係への影響などがある

遺伝性腫瘍は、私たち一人ひとりの生活や人生観にも深く関わる話題です。しっかりと情報を集めたうえで、自分や家族に合った選択をするために、専門家との相談や家族との十分な話し合いが大切といえます。


まとめ

  • 多くのがんは遺伝しないけれど、一部のがんは生まれながらの遺伝子変化をもとに“遺伝性腫瘍”として、家族間で発症リスクが高くなることがある。
  • 遺伝性かどうかを調べるには、がんの細胞だけでなく正常な細胞も検査する必要がある。
  • 若くしてがんを発症したり、家系内で同じ種類のがんの人が多い場合などは、遺伝カウンセリングを受けてみるのがおすすめ。
  • 遺伝性腫瘍は検査結果だけでなく、その後の人生設計や家族の将来に大きくかかわるため、専門家や家族と十分に話し合うことが重要。

家族に「若くしてがんになった人がいる」「同じ種類のがんが多い」といった心配をお持ちの方は、一度、専門の遺伝カウンセリング外来や主治医に相談してみるとよいでしょう。自分や家族にとって、必要な情報やサポートが得られるはずです。

ご自身の不安を解消するためにも、正しい知識を身につけながら、必要に応じて医療者やカウンセラーの力を借りてみてくださいね。

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