がんゲノム医療の理解と従来治療との違い

がんゲノム医療の理解と従来治療との違い
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がんゲノム医療の理解と従来治療との違い

従来のがん治療と「臓器別」アプローチ

これまで、がん治療は「がんがどの臓器から発生したか」をもとに行われることが一般的でした。たとえば、肺にできたがんなら「肺がん」、大腸にできたがんなら「大腸がん」として分類し、それぞれに適した薬物治療や手術、放射線療法を選択してきました。このような治療の考え方は世界中で確立され、現在でもがん治療の基本として広く利用されています。

がんの三大治療
引用:教えてがんゲノム医療

しかしながら、近年の研究によって、がんは「臓器」だけでなく、その背景にある「遺伝子の異常(変化)」が積み重なって発生・進行する病気であることが明らかになってきました。従来の「臓器の場所」に加えて、「どの遺伝子に異常があるのか」を把握し治療法を選択したほうが、より効果的にがんの進行を抑えられる可能性があるのです。

がんゲノム医療とは

がんの発生に深くかかわる遺伝子変化を詳細に調べ、その変化を標的とした薬を用いてがんを抑える――この考え方を「がんゲノム医療」といいます。いわゆる“個別化医療”の一つとして位置付けられ、患者さん一人ひとりのがんの性質に合わせた治療が実現しやすくなると期待されています。

分子標的薬とコンパニオン診断

がんゲノム医療の進歩を支えている大きな要素の1つが「分子標的薬」です。従来の抗がん剤(化学療法)が「細胞分裂している細胞」全般を叩くのに対し、分子標的薬は「特定の遺伝子変化によって作られるタンパク質」だけを狙い撃ちして作用するため、副作用をある程度抑えながら高い治療効果が期待できる場合があります。

分子標的役の働きと従来の抗がん剤
引用:教えてがんゲノム医療

しかし、このような分子標的薬は「対応する遺伝子の変化がある患者さん」にしか効果を発揮しません。

そこで、その遺伝子変化の有無をあらかじめ調べる検査が「コンパニオン診断」です。コンパニオン診断で特定の遺伝子変化が見つかった場合には、対象となる分子標的薬の効果が期待できますし、遺伝子変化がなければ効果は期待しにくいと判断されます。

コンパニオン診断薬の流れ
引用:教えてがんゲノム医療

がん遺伝子パネル検査

コンパニオン診断では、1つまたは数種類の遺伝子変化しか調べられないことが多く、同時に多くの遺伝子変化を調べる必要が出てきました。そこで登場したのが「がん遺伝子パネル検査」です。

次世代シークエンサーを用いて、一度に数十から数百個の遺伝子変化を調べることができ、がんにとって何が「ドライバー遺伝子」なのかをより効率的に探し出せるようになっています。

臓器横断的な治療の例

がんゲノム医療が浸透しはじめるにつれ、これまで「乳がん専用」と考えられていた薬が、実は「HER2」という遺伝子変化を持つ胃がんや卵巣がんなどでも効果を示す、といった状況が明らかになってきました。

また、「NTRK融合遺伝子」という比較的まれな変化に対して作用する薬が、肺がんや大腸がん、その他の固形がんなど、臓器を問わず効く可能性も示されています。

こうした事例から、がんゲノム医療では「どの臓器にできたがんか」だけでなく「がん細胞にどんな遺伝子変化があるのか」という視点で治療法を検討する重要性が高まっているのです。

遺伝子変異の検査結果は治療方法の選択に役立つ可能性
引用:教えてがんゲノム医療

がんゲノム医療を受けるためには

がん遺伝子パネル検査の保険適用は、2024年1月現在、複数の製品があり、腫瘍組織を使うタイプと血液を使うタイプがあります。腫瘍組織パネル検査が優先され、実施できない場合に限り血液パネル検査が受けられます。

検査費用は保険点数上約56万円と高額ですが、3割負担の方だと自己負担額は16.8万円程度です(社会保障制度等により異なる場合もあります)。

対象となる患者さん

保険診療でがん遺伝子パネル検査を行うには、標準治療(一般的に推奨される治療)が終了または終了見込みで、ある程度の予後(余命期間)が見込まれる固形がんなど、いくつかの条件を満たす必要があります。検査を希望される場合は、主治医とよく相談して受検の可否や時期を検討することが大切です。

エキスパートパネル(専門家会議)

がん遺伝子パネル検査によって見つかった遺伝子変化が、実際にその患者さんのがんに対してどのくらい病的意義があるのか、利用できる治験はあるのか、適応外薬やまだ未承認の薬はどうなのかなどを検討する場が「エキスパートパネル(専門家会議)」です。多職種・専門家が集まり、総合的に治療方針を検討します。

がんゲノム医療における課題

がん遺伝子パネル検査で遺伝子変化が見つかったとしても、必ずしも薬剤が届くわけではありません。国内で報告されている薬剤到達率(保険診療または治験への参加など)はおよそ3〜10%程度といわれ、多くの患者さんは「遺伝子変化は見つかったが、保険適用や治験がない」という状況に直面しています。今後はさらなる研究の進展や制度の整備が求められています。

また、新しい分子標的薬や免疫療法が続々と開発されていますが、すべてがすぐに保険適用になるわけではありません。薬事承認を得るためには十分な有効性・安全性データが必要であり、患者さんが治験に参加できる条件も限られています。さらに、費用や医療体制などの課題もあり、多くの患者さんが円滑に先進的な治療を受けられるような環境整備が今後ますます重要となります。

まとめ

  • 従来のがん治療は、発生した「臓器」や「組織の型」をもとに治療法を選択するのが基本です。
  • がんゲノム医療では、がんの原因となる「遺伝子の変化」を調べ、それを狙い撃ちにする薬剤を使って効果的にがんを抑えることをめざします。
  • 分子標的薬やがん遺伝子パネル検査の進歩により、患者さんごとの「がんの性質」に合った治療を検討できるようになりつつあります。
  • 一方で、がん遺伝子パネル検査で変化が見つかっても、すぐに薬剤が届けられるわけではありません。現在の薬剤到達率は3〜10%ほどで、治験や適応外薬などを含めた臨床研究への参加機会にも限りがあります。
  • それでもがんゲノム医療は、新しい個別化医療の大きな柱の一つとして、さらなる発展が期待されています。

がんは複数の遺伝子変化による“個性”を持った病気です。今後は「臓器別」のみならず、「遺伝子変化」という視点を加えた多角的なアプローチが重要です。興味をお持ちの方は、主治医へご相談のうえ、専門の病院や拠点病院などで適切な情報提供を受けることをおすすめします。

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